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江之浦のアワビのエサ、カジメが無くなった

食べ物がない

あんなに沢山あったのに

食べる物がない。

飢餓の状態が続く。

いったい、いつになったら戻るのか?

なぜ?

こんなに食料不足が続くのか?

これは人間の話ではない。

海に棲む貝、アワビやサザエの話。

アワビやサザエのエサはカジメ

アワビやサザエのエサはカジメなどの海藻。

昨年秋から西湘南海岸と真鶴半島までカジメの減少が広まった。

今ではほとんどカジメがない。

カジメ林だった場所には岩とゴロタ石が裸で転がる。

13年前に三浦半島でも

13年前、三浦半島でもアワビやサザエのエサであるカジメが急速に減った。

それまでは三浦半島の何処でも見事な海中林をつくり繁茂していたカジメ林。

今では見つけるのが難しい。

カジメってなに?

カジメとは

カジメ

カジメは褐色の海藻で深度2~20mの岩場に生え、最も繁茂するのは5~10m。

九州から東北まで分布、水温10~28℃の範囲で成長する。

水温30℃では2~30日で枯死する。

繁殖は葉辺部から遊走子を放出し、雄性配偶体と雌性配偶体になる。

雄性配偶体は精子、雌性配偶体は卵を形成し、受精した卵は胞子体となって岩盤に着床し7ヶ月で成体になる。

寿命は3~4年。

カジメ類が繁茂する群落を海中林と呼ぶ。

海中林は生物の摂餌場、生息場所、隠れ家、産卵場、稚魚育成場所など大きな役割がある。

エサになるカジメ

ダイバーに人気のダンゴウオはカジメの幼体で稚魚期を過ごす。

カジメはアワビやサザエ、バテイラのような巻貝のエサでもあり、アメフラシや一部のウニのエサにもなる。

また海藻食のアイゴなどの魚類のエサや人間の食料にもなる。

カジメの減少する原因

カジメの減少する原因は温暖化、魚のアイゴによる摂餌被害、ガンガゼやムラサキウニによる摂餌被害、川からの汚染水流出などの問題があげられている。

西湘南海岸と真鶴半島沿岸でのカジメは2019年の9月までは問題なく繁茂していた。

カジメ

10月にある事件が起きてからカジメが急速に減った。

それは台風による大きな波だった。

過去にも台風の影響をなんども受けているが2019年10月13日の台風19号の被害は特別に大きかった。

深度5mより浅い場所の大きな石は大波が通過するごとに転がり続け、表面の付着物、海藻、海綿動物、腔腸動物、環形動物などを全て削り取った。

水底を棲家とする魚やカニ、エビ、タコ、貝なども全て跡形もなく消えた。

消波ブロックのテトラポットさえ移動し、あるものは折れた。

この台風は深度12mの石も動かした。

凄まじいパワーを持って海岸を痛めつけ、深度6~14mに多く繁茂していたカジメにも影響を与えた。

葉片の無くなったカジメ

台風後にカジメの幼体のほとんどが削り取られて無くなった。

全ての成体が子孫繁栄のための葉片を波の力でちぎり取られた。

少しだけ残っていた葉片の基部もアイゴ、メジナ、ブダイ、ベラなどの魚に齧られ、水温が下がると枯れ、最後には根も無くなった。

時期が来れば再生するものと思っていた。

6月にカジメの幼体発見

コロナ禍のため再び海中を訪れたのは6月、わずかにカジメの幼体が着きはじめた。

7~8月、柔らかいカジメの幼体はアイゴたちに食べられたのか、無くなった。

今ではカジメの姿を見ることは皆無、何処にもない。

これではアワビやサザエなどの貝たちも育たない。

千葉県の勝山でもカジメがない

先週千葉県の勝山へ視察で浮島の周りを潜ったがカジメの姿は見られなかった。

カジメがなくなった理由を温暖化だと現地の人は言っていた。

6年前から水温が2℃上がる。

今の年間水温を聞くと、冬で12℃まで下がり、夏は27℃まで上昇。

これはカジメが育つ適当な水温、水温上昇だけが原因とは考えにくい。

昨年2019年10月の台風19号は館山市の隣、ここ鋸南市勝山にも同じダメージを与えた。

西湘南海岸や真鶴半島と同じ現象に近い。

このままカジメが無くなれば、アワビやサザエなどの貝たちにとって致命的な問題。

アワビやサザエが食べられなくなる。

カジメが育たないのはなぜなのか?

カジメが無くなった原因は台風

カジメが無くなったのは明らかに2019年10月の台風が原因。

5mより浅い深度のカジメはこの時の波にもまれて全て無くなった。

6~12mに残ったカジメも葉片がちぎれ基部と茎だけになり、それも時間と共に枯れて無くなった。

カジメが育つはずがない

新しい芽が出るための遊走子が無い。

遊走子を生み出すカジメの葉片がない。

胞子体が着床したはずの主な岩の表面は削り取られた。

これではカジメが育つはずがない。

カジメ
カジメの幼体

数少ない幼体も無くなった

かろうじて生き残る数少ないカジメの赤ちゃんは6月に幼体となった。

それも夏場にアイゴか?サザエ?が柔らかい数少ないカジメの幼体を食べてしまった。

漁師の話ではサザエとアワビは数が減っている。

水中で見るサザエの数は少なくなったと感じる。

ましてアワビの姿は見かけない。

増えるアイゴ

けれどもアイゴはよく見る。

アイゴの数が昔に比べ増えたかもしれない。

以前よりも確実に多く目にする。

水温上昇のためアイゴが生活しやすい環境になっているように思われる。

カジメが生い茂っていた昨年まではカジメの先端を食べているアイゴをよく目にしていた。

少し食べては他のカジメへ移り先端の柔らかい部分だけを食べる。

カジメの赤ちゃんを食べている様子も想像がつく。

久しぶりのご馳走にありついて美味かったことだろう。

今年10月になってもカジメの姿は何処にもない。

このまま枯れた岩場の水底になってしまうのだろうか。

カジメの子孫は流れ着く

生まれて浮遊するカジメの子孫を海の流れが遠くまで連れて行く。

1knot(時速1.852)の流れがあれば1日で44km移動し、2日で88km移動する。

東伊豆稲取から三浦半島城ヶ島の間にカジメがあれば1日で遊走子や胞子体が海流に乗って流れてくる可能性がある。

運よく海流の向きが良ければ2日で房総半島から遊走子や胞子体が流れてくるかもしれない。

カジメが遊走子を葉片からだす時期が今の9~10月。

台風で海岸が洗われなければカジメの幼体が来年見られるかもしれない。

多くの幼体が岩場に付着して育つことを期待する。

その時心配なのは増えているアイゴたちの食害。