沖縄のとある島

昔の若者に聞いた話

島の名前も場所も覚えていない、けれど確かにあった。

暑い夏の日だった。

真白な砂浜はエメラルドの海に眩しい。

空には何処までも抜ける青が続く。

太陽は全ての物を焼き尽くすかのようにギラギラと輝やき。

肌に刺さる陽射しが痛い。

おじいのサバニ

額から流れ落ちる汗を手で拭いながら水平線の白い点を見つめていた。

波間に見えたり消えたり繰り返す。

一枚帆のおじいの船、笠を深くかぶり、短い櫓を操る。

今日も魚を獲って無事に帰ってくれるだろうか。

赤髪のマル

ふりかえりガジュマルの下にいる赤髪のマルに聞いた。

マルは赤ら顔で何も答えない。

マルに最初に会ったのはずいぶん前の事だ。

ガジュマルの近くで釣りをしているとマルがやってきた。

まるで釣れないのを見てマルが鼻で笑った。

なんだコイツ、お前なら釣れるのか!

機嫌の悪かった俺は竿をマルに渡す。

グルクン大漁

すると不思議なことが起こった。

今までまったく魚がいなかったのにグルクンが嘘のように釣れる。

マルが手品でも使っているのでは?と思うほど。

時間はかからずカゴはグルクンでいっぱいになった。

マルとグルクンを半分に分けて持って帰った。

不思議なのは夕飯に食べた全てのグルクンの片目がない。

マルは遊び上手

いつしかそのことは忘れガジュマルの下でマルと遊ぶようになった。

走ったり、気に昇ったり、泳いだり、相撲をとったり。

マルは木登りもうまく、泳ぐのも早かった。

カニや魚を獲るのも上手く、グルクン釣りでは勝ったことがない。

苦手なタコ

そんなマルにも苦手なものがあった。

タコが釣れた時は跳ねまわって逃げる。

べつに噛まれたわけでも無いし、追いかけられることも無いのに。

タコは気持ち悪いと本当に恐れているようだ。

ニワトリ大嫌い

あと、鳥も苦手のようだった。

あるとき飼っているニワトリがやってきたら慌てて逃げ出した。

襲われたわけでもないのにピョンピョン飛びながら逃げるマル。

その様が面白くてマルには悪いが見続けていた。

ニワトリのくちばしで目をつつかれたら大変だ、それに足が速いじゃないか。

と怒っていた。

おじいにその話をしたらマルに優しくしなければイカンと怒られた。

ガジュマルの精霊

マルの家は何処?

マルの家は誰も知らない。

おじいさえも丸の家は知らないらしい。

いつもガジュマルの近くにいるからきっと何処かに家があるはずなんだけど。

マルに聞いても誰に聞いても答えてくれない。

そのような詮索さえしなければマルは良い遊び友達。

とても気の合う遊び上手なマルは貴重な遊びのパートナーだ。

あの時までは

けれどそれはある日最後になった。

明け方から吹く大風と豪雨、そしてカミナリ。

運の悪いことにカミナリがガジュマルに落ちて燃えてしまった。

そのことを翌日おじいは話しをしてくれた。

それからマルとは会っていない。

マルはキジムナー

おじいはマルはきっとキジムナーだと教えてくれた。

ガジュマルがマルの家で、魚獲りが上手で、グルクンが好きで、料理したグルクンの片目が無かったのはマルが食べたのだろうと言っていた。

キジムナーは優しく接する人間には悪さはしない。

キジムナーは魚獲りが得意でグルクンが大好物、特に目玉が大好き。

けれどタコとニワトリが苦手。

ガジュマルに古くから棲んでいる精霊なんだとか。

きっと何処かのガジュマルでマルは今も元気に暮らしているような気がする。

もしマルに会ったら言ってやるんだ。

ニワトリは俺がいつでも追い払ってやるからって・・・。