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新月にホタルイカの身投げ、駿河湾の大瀬崎で見る

夜の海に思い出す幻想的なホタルの光

暗い美しい光景

あの情景を見たのは今から25年ほど前の事だろうか。

あの時は何んでそのような状態が生じているのか解らなくて長い間の疑問だった。

それにしてもあの美しい光景は忘れられない。

駿河湾 大瀬崎

見たのは太平洋の駿河湾。

さらに沼津寄りの内裏湾の入り口、大瀬崎前浜。

学生時代の40年前、沼津に住んでいたこともあってこの大瀬崎の海が静かで好きだった。

その頃は東京から来るダイバーもいない。

地元の人間だけで楽しんでいるような田舎の部落。

しかし10年も経つと週末の海岸は夏でも冬でもダイバーで溢れるようになった。

魚も多く、台風などのコンディションにも強いという地理的条件。

直ぐ側に日本海溝という日本で一番深い海溝があるという生物的な好条件が重なり初級者から上級者、水中カメラマンまでが通いつめるダイビングポイントとなった。

3月の暗い夜

その事件があったのは3月の暗い夜。

時間にすれば午後の8時頃。

その日も大瀬の前浜は静かで湖を思わせるような凪。

緩やかなさざ波が海岸に打ち寄せる。

海岸の波打ち際まで行って見ると不思議な景色が広がった。

緑色に光る

海岸線の目の前の一部が緑色にぼんやりほの暗く光る。

ん・・・?

なんだ・・?

さらに側に寄ってみると砂浜が透き通るように緑に光る。

その光は蛍の光とよく似ていた。

遠く離れてしまうとその光は見えない、淡く、弱い緑の光。

さらに近づいて見るとイカだった。

小さなイカの胴体と足の一部が緑色に光っている。

駿河湾にもホタルイカ

ホタルイカだ!

光るホタルイカを初めて見た瞬間。

確かホタルイカと言えば日本海の富山県、兵庫県、福井県、鳥取県、あたりが有名だったはず、こっちの太平洋にもいるのか?

でも駿河湾は深いからいてもおかしくはないか?

と思いながら眺めていると不思議なことに気がついた。

自分から進んで陸へ上がる

ホタルイカは自分で進んで波打ち際へ泳ぎ、陸上に上陸するように泳いでくる。

当然、波に打ち上げられてしまう。

打ち上げられたホタルイカはやがて呼吸ができなくて死んでしまう。

水中で大きな魚に追われているのかと思い、水面を見渡すが魚の気配も無い。

なんで自分から浜に上がるのだろう?

ホタルイカの投身自殺

まるで投身自殺をしているような雰囲気。

浜に打ちあがったばかりのホタルイカをもう一度海へ帰す。

けれどそのホタルイカは海に帰るのではなく、また浜へ戻って打ち上がってしまう。

何匹海へ帰しても皆同じ。

これは集団自殺?

何のためのホタルイカの集団自殺?

ホタルイカが過剰に増えすぎたためか?

いくつもの疑問が頭の中を駆け巡る。

ホタルイカの身投げは30分以上続き、やがて終わった。

いったい身投げにどんな意味があったのか?

今でも時おり思い出す。

翌朝ホタルイカの痕跡はない

翌日の朝、気なって海岸を歩いてみたがホタルイカの死骸は一つも見つからなかった。

波にさらわれたのか?

カラスに喰われたのか?

そして今日、その時の疑問が解決する?

この時期、日本海富山湾でホタルイカの漁が盛んに行われ、ニュースで流れてくる。

そのニュースに消えたホタルイカの答えの端を見つけた。

ホタルイカの身投げ

富山の海岸に集まるホタルイカニュース

午前1時すぎなのに200人程が深夜の富山の海岸に大きな玉網を持って集まっている。

「取り放題です。本当に取り放題!」

「金魚すくいのように周り一面に。800とか1000(匹)とか。」

通常、ホタルイカ漁が行われるのは沖合2キロの海。

本来、生息しているのは水深200メートルの深海のはず。

春になると、このホタルイカが「身投げ」するように海岸付近に流れ着く。

ホタルイカが海岸付近にやってくるのは春の新月の夜。

魚津水族館 稲村修 館長 談

「分かっていません。最近では“迷子説”が有望です。

ホタルイカのメスは、春になると産卵のために、水深50メートルから70メートル付近まで上昇して来るんですが・・・

ホタルイカは月の光を見て方向を決めている。

新月前後になると、方向が分からずに方向を見失って、岸の方に押し寄せられる。

そして身投げが起きる。

そういうふうに考えられています。」

 正確な理由は分かっていない

とにかく新月になると、ホタルイカのメスが迷子になって海岸まで流れ着いてくる。

ホタルイカが海岸に現れたのは、深夜0時から4時までの4時間、多く捕った人で300~1000匹。

新月の暗い夜、春、凪の静かな夜。

タイミングはピッタリかさなる。

仮説は迷子。

結局、ハッキリした本当の理由は今も解らず。

そして後にも先にも見たのはそれが最後。