江之浦のワカメがついに消えた

今年ワカメが出なかった

事実を知らない

ついにこんな年が来てしまった。

今まで一度も無かったことが起きた。

江之浦の海からワカメが消えた。

陸地に住む多くの人はこの事実を知らない。

10年前まではワカメの林

10年程前までは3月になると岩場ではワカメが林を作っていた。

ワカメ

ワカメは冬に育つ、水温の高い夏は姿を隠すように寝ている。

水温が16℃以下になると目を覚まし、成長を始める。

湘南の海のワカメの生活史

1月のワカメ

芽が出始める。

浅い岩場に薄い褐色の芽が現れる。

スペードのような形をし、中央に1本の茎(中肋)がある。

日を追うごとに育ち長く伸びていく。

2月のワカメ

成長し葉が長く伸び40~60cmほどになる。

葉縁から分かれた葉部が延びていく。

ワカメ

薄い葉も厚みが出てくる。

茎の根部近く両側に波打つメカブが出来始める。

芽も次から次へと出てくる。

3月のワカメ

海底の岩場はワカメが繁茂し景観が変わる。

大小様々なワカメが成長し1m以上の大きさに育つ。

葉部の厚みもしっかりし、メカブも小型のパイナップルほどになる。

メカブはワカメの生殖器。

メカブからは繁殖のため、遊走子(胞子のようなもの)が出て泳ぎ回りやがて岩場に着底する。

この頃より海は濁りだす。

春濁りと呼ばれる。

4月のワカメ

葉は硬くなる。

葉部先端より枯れて溶けだし、短くなっていく。

ワカメ全体にヒドラなどの付着物がつく。

5月のワカメ

柔らかい葉部は溶けて無くなり、根部、茎、メカブだけが残る。

6月のワカメ

残っていたワカメの根部も海が荒れるたびに減っていく。

7月のワカメ

岩場からワカメの姿が完全に消える。

8~12月のワカメ

ワカメの姿は見られない。

場所と水温で成長状態は変わる

以上は神奈川県小田原市江之浦海岸の状態.

北海道や東北の一部では1年中ワカメが見られる地域もある。

多くは海水の水温による影響が大きい。

低い水温が好き、高い水温が苦手なワカメ。

水温とワカメの成長の変化

1~3月の水温とワカメ

湘南海岸周辺の12月上旬の水温は19~17℃、ワカメの姿はまだない。

1月に入ると水温16℃に下がりワカメは芽をだし始める。

ワカメ

2月に15℃、3月に14℃、3月下旬には13℃になる。

水温の低下と共に成長する。

4月に水温が上昇を始めると枯れはじめる。

メカブから生れたワカメの子

3~4月、メカブから出たワカメの遊走子は鞭毛で泳ぎ回る。

やがて泳ぎ回るのを止め岩場に着底する。

着底数時間後には根を出し細胞分裂を始め成長する。

成長しながら雌雄に分れ、オスとメスの配偶体になる。

メスになった配偶体は卵をつくり、オスになった配偶体は精子をつくる。

夏場は休眠する

夏の水温の高い時期、この配偶体の状態で時間を過ごす。

水温が都合の良い低温に下がるとオスの配偶体から精子が泳ぎだす。

精子は泳ぎながらメスの配偶体の卵と接触し受精する。

受精後は細胞分裂を繰り返し、本来のワカメの芽が出てくる。

今は味わえない美味かった生ワカメ

江之浦でワカメの養殖

小田原市の江之浦海岸ではワカメの養殖を行っていた。

毎年11~12月にワカメの芽のついたロープを江之浦海岸沖合に張る。

芽は冬場に成長を続け、3月には水揚げの時期になる。

3月には水揚げしたワカメは干しワカメや塩蔵ワカメに加工し販売された。

ワカメ

ワカメの刺身と天ぷら

ワカメ漁があるときには生ワカメを譲ってもらい、家でワカメの刺身やサラダ、みそ汁など多くの料理を楽しんだ。

近所に配れば喜ばれ、女性からお通じが良くなると報告を受けた。

塩天丼屋のマスターに生ワカメを持参した翌日には必ずワカメの天ぷらが配達された。

そんな楽しみも今はない。

不良が続き、4年ほど前にワカメの養殖を止めてしまった。

水温が上がりワカメが無くなった

確かに海岸に育つワカメは減った。

2年前、1月に水温が16℃に下がるはずが2月になった。

それでも昨年2月、浅い岩場の一部にはワカメの芽が残っていた。

だが今年ついに1本のワカメもでなかった。

水温は1~4月上旬までほぼ16℃、冬としては2℃高い。

砂漠のような水底

今海底に海藻の林は見られない。

他の海藻も生えていない砂漠のような状態。

魚や貝、ウミウシのエサであり、隠れ家であり、産卵場だったワカメを含めた海藻が無くなった。

魚やサザエ、アワビなどにどのような影響が出るのか解らない。

陸上で暮らしている多くの人たちはこの事実を知らない。

コロナ禍で大変な思いをしている人間界。

先を考えると心配でならない。