日本だけにしかいないムギワラエビ
ムギワラエビって何?
釜じいに似たムギワラエビ
以前ムギワラエビと呼んでいた生物がいた。
体は「千と千尋の神隠し」に出てきた釜じいに似る。
クモのように細く長い足が8本、その内の2本がハサミ脚。
ヤドカリの仲間
エビと名前が付いているがエビではなく、ヤドカリやコシオリエビの仲間。
尾は内側に丸まる。
泳ぐ時はこの尾を伸ばしたり丸めたりを高速で繰り返し、後方へ移動する。
ソフトコーラルのヤギ、ウミカラマツ、ウミトサカなどの上に生息。
エサは脚に付着する有機物を他の足でこそげ取って食べる。
図鑑にムギワラエビと明記されたいたのでそう呼んでいた。
ところがある時突然名前が変わった。
突然オルトマンワラエビに名義変更
それは2000年に図鑑:海の甲殻類 (ネイチャーガイド峯水亮 写真/武田正倫 解説/奥野淳兒 監修)が出版された時だった。
明記されてされていたムギワラエビの名前が変わっていた。
オルトマンワラエビというなんとも奇妙なウルトラマンのような名前。
学者オルトマンが見つけた足の細長いワラエビ。
しばらくは名前が覚えられずにそのままムギワラエビと呼んでいた。
今でもオルトマンワラエビをムギワラエビと表記している図鑑はある。
それでは本当のムギワラエビは?
本種ムギワラエビは日本の固有種
水深50~70mの深い場所に生息する手足の細長いムギワラエビ。
日本だけで見ることができる日本の固有種。
東京湾・浦賀水道・相模湾・南紀・日向灘に分布する。
明治13年東京湾で見つかった
ドイツ人の研究者が1880年(明治13年)に千葉県鋸南沖の東京湾で採取し、新種として発表。
その後、東京湾では見つかっていない。
オルトマンワラエビとムギワラエビはとても似ている。
その違いは生息する水深が深いということ以外は未発表のため謎だった。
135年ぶりに東京湾で見つかった
そして6年前の2015年5月23日に同じ東京湾にある千葉県鋸南の浮島沖で見つかった。
なんと明治以来135年ぶり。
その後はいたり、いなかったり。
オルトマンワラエビとムギワラエビは形もソックリ、脚の数も同じ、色までほぼ同じで区別が難しい。
ムギワラエビは50mより深い水深に生息するということを除いては生息場所も同じ。
ムギワラエビとオルトマンワラエビの違い
ムギワラエビとオルトマンワラエビの違うポイントは3つ。
①ムギワラエビの生息水深は50~70m、オルトマンワラエビの生息水深は15~70m。
ムギワラエビの方が深くアマチュアダイバーの深度限界40mより深い。
②6本の脚の第二関節近くにあるラインの色が違う。
ムギワラエビは紅白の2色。
オルトマンワラエビは黒白黒の3色。
黒はやや赤みがかかる。
オルトマンワラエビのラインには赤白赤の3色もある。
③全体の色はムギワラエビの方が明るく黄色が強い。
けれど大深度の暗い水中ではライトが無ければ解らない。
この3つの違いでオルトマンワラエビとムギワラエビを見分けていく。
今まで撮影したものを確認
過去撮影してきた写真が紅白の2色ラインなのか、黒白黒(赤白赤)の3色ラインなのか、確認してみた。
写真を撮った場所はほとんどが伊豆近辺、水深は20~30m。
深度から考えれば3色ラインのオルトマンワラエビになる。
紅白2色脚を捜して写真データを開く。
残念ながらオルトマンワラエビの黒白黒(赤白赤)の3色が全てであった。
ムギワラエビの2色は見つからない。
紅白2色ラインの本種ムギワラエビを見に行こう
千葉県鋸南市勝山ボートダイビング深度30m
今なら勝山ボートダイビング、深度30mで紅白2色のムギワラエビを見ることができる。
なぜ、勝山なのか?
勝山漁港の直ぐ沖には水深650mの深さの東京湾海底谷があり、深海の生物が浅場に近寄り易い。
また東京湾奥の海水と外海太平洋の海水が混じり合う場所。
栄養も豊富。
昨年、秋にムギワラエビは行方不明になっていた。
寿命はほぼ1年といわれる。
冬を前に命が尽きたのだろう。
秋に去り春にまた現れる
そして春になってまた出現した。
昨年の個体なのか新しい個体なのかは不明。
たぶん新個体と思われる。
場所は千葉県鋸南市勝山漁港沖、浮島の西
浮島の西側、島裏のポイント。
千手ドロップと大黒ヒルの間。
岩場と砂地の境近く。
水深は30mと深い。
深度30mの注意事項
水深30mは箱形潜水なら潜水時間のリミットは15分。
越えれば減圧症の危険性が高まる。
薄暗く、色もハッキリしない世界、ムギワラエビがいても暗くてわからない。
ライトは必需品。
エアーの消費も早い、水面の4倍の速さで空気を消費する。
使用するタンクも大きめのものを用意したい。
現在の水温は16℃、ダイビングスーツは暖かい保温性のあるものがよい。
水中のミッション15分
潜水時間15分は短い。
カウントダウンは水面でBCの空気を抜いた瞬間から始まる。
潜降する時間もカウントされる。
着底後に薄暗い中をナビゲーションし、深度30mのムギワラエビのいるポイントをホットスポットで当てなくてはいけない。
到着までに5分以上かかる。
残り少ない時間を撮影のために使う。
人数が多ければシャッターチャンスは少ない。
安全のためにもリミットギリギリまでの時間は使えない。
撮影後には浮上しながら船のある場所まで戻ってこなければならない。