人間と友達になりたかったシャチ シナリオ2
人間に興味を抱いたシャチ ルナ
英語で Killer Whale と呼ばれるオルカ、日本語ではシャチ。
サメやクジラを襲って食べてしまうというシャチが人間と友達になりたがるなんてことがあるのだろうか?
これは20年ほど昔、カナダ(Canada)のバンクーバー(Vancouver )で実際にあった話。
シャチの話題で持ち切り
ルナの友達捜しは始まったばかり。
シャチのニュースが広がりはじめ、みんな凄く興奮していた。
私たちが目撃したと知ると皆質問攻めになる。
私も興奮した。
行く先々でルナの話で持ち切り。
見つめるシャチ
ルナが考えにふけるかのようにシゲシゲとこっちを見る。
だから自分が何をしているのかあの子には解っているような気がした。
人間に興味を持つシャチ
シャチはよくやってくるが普通は人間を避ける。
人間に興味を示すシャチなんて初めて。
心に棲む
ルナは私の中にいる。
私の頭や心の中に入ってきた。
まるで私の魂が心踊るよう。
間違った考え
動物は思考能力を持たない。
動物は人間に使えるために存在する。
そんな風に考えられた時代もあった。
動物と人間を隔てる壁
しかし近年、動物と人間を隔てる壁について新たな目が向けられるようになった。
一部の科学者は社会的動物であるシャチと人間の間には予想以上に多くの共通点があるかもしれない。
社会性を持ち複雑な生活を営むには極めて高い知性が必要。
人間もシャチも気が遠くなるほど時間をかけて脳を発達させた。
そして、海と陸という2つの世界で仲間と協力する術を学び生き残ってきた。
人間とシャチはそれぞれ違う進化の道を歩みながら同じことを学んできた。
ルナが求めてるもの
しかし、仲間と協力をし合うことを覚えたのと引き換えに人間もシャチも独りぼっちでは生きられない存在となった。
だからこそ私たちはルナの孤独を理解し、ルナが何を求めているのかが解った。
人間は科学の力によって数多くの謎を解き明かしてきた。
それは新たな謎を生み出すことにもつながる。
私たちにとってルナは大いなる謎であり、野生動物でありながら人間と同じ意識を持っているように思えた。
そして科学とは違う視点からルナを見守る人がいた。
先住民たちの想い
シャチは最も敬う動物
我々の信仰には超自然的な生き物が存在する。
先住民たちは4000年前からこの土地で暮らす。
オオカミは我々が最も敬う生き物の1つ。
それに匹敵する海の生き物がシャチ。
真実と正義に繋がる生き物。
長老の蘇りがシャチ
ルナが現れる前の事。
同じ州の先住民の長老だったアンブがシャチになって戻ってくると言い残して亡くなった。
アンブは死ぬ間際に幸せそうに言い残した。
シャチとなって現れる。
なんとその通りになった。
彼らはルナをスキートと言う名で呼び始めた。
スキートとは亡くなったアンブのニックネーム。
我々は彼をこの上なく尊敬している。
スキートを守るためなら私は命を懸ける。
ルナ3才の夏
馴染みのボートと遊ぶ
夏になった。
ルナはもうじき3才。
すっかり人々に馴染み、毎日ボートと遊んでいる。
しかし野生動物を愛する多くの科学者はルナが人間と接触するのは良くない事だと考え、対応を始めた。
ルナが独りぼっちになる。
ケガをする危険性
生物学者のトニーは人間と交流しようとしているクジラやイルカについて研究している。
メディアでは美しい話が沢山放送される。
でもそれは明るい面であって、暗い面もある。
人間に関わる部分。
トニーはクジラ安全管理プロジェクトの科学顧問をしている。
プロジェクトの運営者キャシーは長年クジラの保護に努めてきた。
人間とクジラが接触するということはどちらもケガをする危険性がある。
人間に近づけばケガをする
かつてニューファンドランドに人間と遊ぶのが大好きなエコというシロイルカがいた。
ある日エコは頬をスクリューで深く刻まれた状態で戻ってきた。
獣医は人間がそばにいれば助かるかもしれないと言った。
そこでキャシーは2週間エコのそばで付き添い、傷が癒えるのを見守った。
エコは生き延びた。
このような悲劇は珍しい事ではない。
私たちの調査によればイルカやクジラが人間と交流を持てば持つほどケガをしたり死んだりする可能性が高くなる。
ルナを愛する人々のジレンマ
ルナを愛する人々はジレンマにおちいった。
ルナが望む物を与えるべきなのか?
科学者の忠告に従い距離をおくべきか?
水産海洋省の立場
水産海洋省のマリの立場はハッキリしていた。
人間と野生動物の間には境界線が必要。
距離をおいて接するべき。
水産海洋省のエドも考え方を受け入れた。
ルナは寂しがり屋で交流したがっていた。
でもそれは良くない事だとさんざん聞かされた。
私もそちらの立場に立った。
ルナの安全管理プロジェクト
愛のムチ
こうしてルナの安全管理プロジェクトがスタートした。
人々がルナと遊ばないよう女性の安全管理員に指導させることにした。
ルナにとっては愛のムチ。
安全管理員による指導
夏になるとサケを獲るために集まってくる漁師たちの間でムーヤベーに立ち寄れば可愛いシャチが見られるという噂が広がっていた。
「このシャチに触らないでください。違反になりますよ!」
「この子が寄って来たんだ」
「でもわざわざボートを止めたでしょ!」
「そのシャチになんらかの危害を加えると漁業法違反とみなされて罰金が課せられますよ!」
安全管理員の女性たちは断固たる態度で臨んだ。
「触らないでください!」
「解かったよ」
ボートを止めるのも法律違反
ヌートカ湾の雰囲気は一変した。
突然この海域でボートを止めるのは法律違反になった。
ところがルナは法律など知らない。
「シャチを見ないでください!」
「直ぐにこのエリアから出て!」
「漁業法違反で最高10万ドルの罰金が課せられます!」
「シャチを見ないで!」
「見世物じゃありませんよ!」
「漁業法違反に問われます!」
「スピード上げて!」
「止まらないで!」
「行って!」
「急いで!」
「早く!」
「スピード落とさないで!」
指導を快く思わない人
安全管理員による指導を快く思わない人もいた。
「ゴムボートに乗った女性たちがきてビデオまで撮られた」
「取り調べかと思ったよ」
みんな、なんだこの小娘たちはって怒っていた。
ルナに話の邪魔をされる
ルナに話の邪魔をされることもある。
「シャチに触ると10万ドルの罰金ですよ!」
「私たちはそのための監視を・・・!」
頭を持ち上げて話の邪魔をするルナ。
「ルナ止めて!」
「だったらこのシャチを移動させればいいじゃないか」
「漁船だって沢山いるんだから」
また頭を持ち上げて邪魔をする。
「ちょっとルナ止めてったら!」
「やってられないな}
「こっちに誘き寄せるからエンジンを止めて!」
ルナをだます
安全管理員たちはルナと人間の交流を断ち切るためにある技をあみ出した。
ルナがそばにいるとボートは動けない。
そこで私たち安全管理員が近寄ってフロートを使ってルナを誘き寄せることにした。
ボートが離れたら今度はルナを私たちがまく。
遊ぼうと誘っておいて置いてけぼりにする。
胸が痛んだ。
でもこれは意地悪じゃない。
人間と関わるのは良くない。
正しいかどうかは解らない。
交流を絶てない
こういうやり方を続けても人間との交流を絶てないことは初めから解っていた。
なぜなら私たち安全管理員がルナとの交流を持ってしまう。
ルナとの接触に葛藤を覚えた。
ルナが壊した壁を作り直すのが仕事なのにルナがやってくると愛おしく感じてしまう。
「人懐っこい」
「本当に可愛い」
「そんなに嬉しい」
この結びつきは他にはない。
初めての経験。
他の動物も好きだけどルナはまったく違う。
毎日往復60キロの旅
その夏、ユチャック号もルナを見るために停船することを禁じられた。
それに対してルナは新しい手を考えついた。
船が止まらなくなると今度は船と一緒に移動し始めた。
ルナはユチャック号について30キロ近い距離を移動した。
ムーヤベイとゴールデンリバーを往復するようになった。
触っただけで罰金
何をしたのか
「私はただ撫でただけ」
あそこに立っていたらルナが直ぐそばまでやってきた。
私が座ったら体の向きを変えてこっちを見た。
横向きになって私を見上げた。
だからちょっと撫でてやった。
そうして欲しがっていた。
そうしたら突然、後ろからこう言われた。
「そこの君、直ぐにシャチから手を離しなさい!」
連行され法廷へ
警官に連行され、サンディーはシャチを侵害した罪で法廷に。
ただし、ルナが証言台に立つことはない。
サンディーは罰金100ドルを払うように命じられた。
彼女は後悔したか?
「いいえ、100ドルの使い道としては最高だった!」
サンディーは笑いながら皮肉を言った。
ルナのために声を荒げることも抵抗もしなかった。