石の模型に恋をした孤独な鳥 虚しく死す 449

ニュージーランド

マナ島

このマナ島での暮らしももうすぐ終わる。

私がこの島へ来たのは今から3年前の夏の事だった。

空も海も青いっぱいの中、北には輝く太陽の陽射しが眩しい日の午後。

いつものようにイワシ、ニシン、シシャモ、イカを追いかけながら飛んでいた。

獲物を見つければ我先に急降下、矢のように水中へ突っ込んでいく。

声が呼んでいる

何回か繰り返した後、私を呼ぶ歌が聞こえたんだ。

遠くの方から、小さいけど、風に乗って、優しく柔らかく、そして楽しそうな声だった。

他の仲間には聞こえないのだろうか?

いや、確かに私には聞こえた。

飛んで飛んだ

声を頼りに長い長い空を飛んだ。

そこには80匹の仲間のガーネット(シロカツオドリ)が島の断崖絶壁の丘で楽しそうに暮らしているように見えた。

シロカツオドリ02
シロカツオドリ02

白いからだ、翼の縁は黒、黄色からオレンジの頭の色が誘っているようにこちらを向いている。

風は強いが他に外敵もいそうにないこの場所は私たちシロカツオドリのパラダイスのように見えた。

 私のパラダイス

名はナイジェルNijel

私の名前はナイジェル、特に名前はないがこの島に来てからそう呼ばれるようになった。

最初この島のガーネット達に近づくのが怖かった。

見ず知らずの外物が嫌われるのは無理もない。

だがその心配は、まもなく消えた。

ここの数多くのガーネットは誰も私の事を拒むものはいなかった。

この丘で暮らす

私はこの丘が気にいった。

そして皆と一緒に暮らすようになった。

日が昇る前から風に向かって飛んだ。

そしてイワシ、ニシン、シシャモ、イカを追った。

見つけた瞬間には海へダイビングして捕えた。

獲物を口で掴むと水面に出る前には飲み込んだ。

腹がくちくなると丘に戻った。

争い事が無い

帰るたびに皆は暖かく歌で迎えてくれる。

凄いことがここにはある、争い事が皆無なのだ。

ケンカも、言い争いも、縄張りも、エサの取り合いも無い。

なんと居心地の良いパラダイスだろう。




何日も過ぎていくうちに不思議なことに気がついた。

不思議なこと

エサ捕り

この丘のガーネットは皆、エサを捕りに行かない。

それでも元気に空を見上げ、毎日楽しげに歌っている。

いつエサを食べているのだろうか?

まさか腹が減らないなどという事もなかろうに?

おかしな事もあった。

毛づくろい

毛づくろいをしてあげようと仲間の側にいくと、いつもと変わらず嫌がれることはなかった。

けれど翼が凄く硬いのだ。

まるで岩のようだ。

羽の隙間にくちばしを入れ、すくことは出来なかった。

シロカツオドリ
シロカツオドリ

春にはこんなこともあった。

恋の成就はそれぞれ

前から思っていた可愛い娘に言い寄ったんだ。

ちょっと体は大きめ、何か心惹かれるんだよな~

青い空に天を突くようにくちばしを摺り寄せて気持ちを確かめたんだ。

相手も乗り気のようで嫌がらず、くちばしを摺り寄せていた。

やった~!と思った。

全てが熱い

心も体も熱くなった。

何も知らないが体が勝手に動いた。

海藻や枯れ草、枝、泥も集めて巣を作った。

交尾をしよと頑張ったがどうも上手くいかなかった。

彼女が腹が減ってるのかと思い魚を取ってきても食べない。

初めてだからしょうがないのかな?と思っていた。

それでも、去年も、今年も頑張った。

どうも苦手だ。

上手くいかない。

恋の成就というのは向き不向きがあるらしい。

この件に関しては才能が無かったらしい。

ここに棲んだ3年の間、外の部族から旅してきた3匹のガーネット(シロカツオドリ)もいたが何泊かすると丘を出て行った。

永住したのは私だけだった。

世界一孤独な鳥

知っている

でも私は知っている。

本当はこの丘の80匹の仲間がコンクリートという硬い石で出来ていること。

だから動くことができない。

ガーネットデコイと呼ばれているらしい。

これらのことは少し前に知ったばかりだ。

時おり現れる2本脚で歩く大きな動物を見ててそう思った。

彼らが何かしたのだ。

硬く動かないのは何かの魔法か?

わからないのは、毎日何も食べずになぜ元気に歌い続けられるのか?ということだった。

ナイジェルと石のシロカツオドリ ← の動画はこちらからご覧になれます。

私がここに棲む3年前まで40年もの間、ガーネット(シロカツオドリ)はこの島に棲んでいなかったらしい。

時が来た

最近飛ぶのが億劫になってきた。

海へ潜ると息が切れる。

腹は減るが思うように獲物が捕れない。

今日は目が霞む。

でも皆の歌は今日も楽しそうだ。

なんと素晴らしいパラダイスなのだろうここは。

この3年間楽しかった。

そろそろ眠くなってきた。

からだも重い。

景色もグレーから白、そして消え・・・

2018年2月ナイジェルは死んだ。

コンクリートで作られ、そっくりに彩られたシロカツオドリの模型にはスピーカーが取り付けられ、太陽電池で明るくなるとシロカツオドリの声が流れるように工夫されていた。

その模型の数は80匹。

南半球ニュージーランドのマナ島では42年前からシロカツオドリが生息しなくなった。

地元の自然保護団体により80匹の模型が1976年に断崖絶壁のこの丘に設置され、3年前に初めて1羽のシロカツオドリのナイジェルが模型に恋をして棲むようになった。

恋をしたナイジェルは交尾行動や巣作りもしたが模型相手の小作りは無理だった。

相手となるシロカツオドリが飛来すれば子孫繁栄が出来るかもしれないと関係者は期待した。

けれど期待は空しく、ナイジェルの相手は動かないコンクリートの模型だけで最後まで叶うことは無かった。

ナイジェルはコンクリートで出来た彼女のことを思いながら先週、2018年2月第2週冷たい体で死んでいるのが見つかった。




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